国をつくるという仕事 / 西水 美恵子


国をつくるという仕事国をつくるという仕事
(2009/04/07)
西水 美恵子

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 世界銀行 南アジア地域 元副総裁の西水さんの著。月刊誌に連載されたコラム「思い出の国 忘れえぬ人々」が元となっているようです。そのコラム名の通り、長年 世界銀行の融資対象となる南アジアの発展途上国の監視助言業務に際して訪れた国々やその国のトップから一般国民(主に貧民)までの人々とのふれあいが描かれています。読者は、"その国の状況というのはリーダー次第"という漠然とした事実を実感することになります。そういう意味で、このタイトル「国をつくるという仕事」は的を得ています。リーダーが良ければ、政治は好転し、国民も幸福に向かう、と。 担当地域が南アジアということで、触れられている国は、インド、パキスタン、スリランカ、ネパール、ブータン、スリランカ、トルコ、バングラディッシュ、ハンガリー、アフガニスタン、モルディブ。

 そこには、苦しむ国民がいます。政治の腐敗、戦争・紛争に巻き込まれ貧困で目を覆いたくなるような悲惨な生活環境。著者が世界銀行に入るきっかけも、貧困街で抱き抱えた少女がそのまま腕の中で死んでしまうという。だいたいそのような国はリーダー不在、もしくはいても私利私欲むき出しの独裁者。そんな国の役人は賄賂天国。これでは、末端の国民は救われるわけがない。読んでいるだけでも腹立たしく、虚しく、悲しくなる。そんな状況に毅然とした態度で各リーダーと対面する著者の姿が、現地の人々には何とも心強かったことか、と思う。

 逆に希望も多い。地域の草の根運動的な改善や国民の心粋、そして素晴らしいリーダーたち。特にこの本でスポットされるのは、ブータンという国自体と国王であるワンチュク雷龍王、インドのシン首相、パキスタンのムシャラフ元大統領。著者が彼らをリーダーとしてとても評価しているのが分かります。『指導者の資質が国のガバナンスのよしあしを決め、良いガバナンスは貧困解消を促進する』とあります。現場に踏み込んだ著者ですから信頼性もあるでしょう。ぜひ別の本でも勉強しようと思う次第です。

 特にブータン国王については、最近でも話題になっているように「国民総幸福量」を提唱しています。この本ではブータンを『世界で一番学ぶことが大きかった国』とし、国王を『人を引きつけるビジョンと情熱、右ならえをせぬ勇気、人の上に立つは下に居ることと知る謙遜、異なる進展や反対意見を重んじる寛容、信念鉄の如く、ほれぼれするほどつながる頭とハートと行動、まことの力は、自ら権力を放棄してこそ授かるものと熟知する人徳、まとめてカリスマ、重量感。』がある人と絶賛しています。
 政治の特徴としては、『どの国も、政治の歴史は改革の歴史。ブータンも例外ではないが、ただ先取りがうまい。我が国のように痛みがひどくなるまで改革を怠り、治療はさらに痛いからと妥協、「癌に絆創膏」のようなことはしない。』とあります。洞察力もさる事ながら、この言いっぷりは爽快ですね。

 恥ずかしながら、このような世界的にご活躍されている日本人がおられたことを存じませんでした。いや~、素晴らしいです。国民の幸福を一番に思うその徹底した一貫性とともに、トップにも率直に意見する姿勢が凛々とした印象で気持いい。各国のリーダーからも頼りにされたことでしょう。そして現実を知るための行動力にも感服させられます。貧民街に寝泊まりするほどの徹底ぶりで、当然そこの人々の心にグッと入り込み本音の会話ができるまでになります。だからこそ、リーダーへの発言は重みを持つことになるのですね。リーダーや国民との出逢いを大切にされているご様子からも人間性が垣間見れます。

 この本から読み取れるリーダー論は、国だけでなく、企業などあらゆる団体に言えることだと思います。配下の人々のことを一番に思い、私利をなくし、将来を見据えて一心に行動する。それが人々の心をつかみ、世を動かし、時代をつくる、ということ。ただ、直接その結論は言わずにじわじわと実感させられる、外堀から埋められると申しましょうか。理路整然と書かれているだけだと"またか"と思うけど、この本は臨場感も重なり、本当に実感させられます。

(注意:せっかくのこのような良い本なのに、最終章の第三者による考察がまとめすぎだし、その方の解釈がくどくて興ざめです。まぁその部分を読まなければいいだけなのですが・・)
2011-10-30 10:01 : 読書感想/書評 : コメント : 2 : トラックバック : 0 :
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遅れ馳せながら
素晴らしい書評、読ませていただきました。
一通り目を通していたはずなのに そのときは頭の中でスルーしていたのか、認識するにはタイミングが必要なのかも知れません。これで、本を買わずに済みました。えっ? Amazonから今日届く筈ですので、改めてしっかり読みたいと思います。
2013-11-09 09:01 : 公園児 URL : 編集
Re: 遅れ馳せながら
ネタバレ、スミマセン!!早速、読んで頂いて有難うございます。
恐らく公園児さんがお聞きになった講演内容と重なるところが多いかと想像しています(公園児さんのブログからの想像です)。

2013-11-09 10:41 : korogaruishi URL : 編集
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